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棚田の里
耕して天に至る千枚田
雨上がりの山道をゆっくりと降りていくと、霧の中から、幾重にも重なった緑の水田が現れます。ここは十日町市松代東山。小さな集落が点在する棚田の里です。
平地が少なく、山と谷の組み合わせで成り立つ地形の中で、耕地として拓きやすい土地は山間か谷間の傾斜地でした。山の斜面を空へと駆け上がる緑の階段。その見事な景観は、全国から多くの人々を惹きつけてやみません。
棚田は自然の恵み
「耕して天に至る」と形容されるこの景観も、一朝一夕にできたものではなく、何代にもわたる努力の積み重ねにより創り上げられたものです。平地に比べて耕地面積が狭く、大型の機械が入らない棚田は、作業をするにも人手は平地の二倍以上、収穫量は数割減と言われています。そのため、いつの時代も、今ある土地でいかに収量を増やし、おいしい米を作るかという試みが重ねられてきました。それぞれの時代において、新しい水利や新しい農具を使う技術が導入され、多くの努力の末に、棚田は農の「恵み」として育っています。
今、目の前にある美しい景観は、代々受け継がれた土地への愛着が結実したものなのです。
雪国の気候風土が育てた味
松代・松之山地域は十日町市の中でも特に雪深い地域です。この地一帯に降る雪は厳しい暮らしを余儀なくさせる一方で、春には清冽な水となって山肌を流れ、土の栄養分をたっぷりと含みながら、耕地を豊かに潤してゆきます。ある農家は言います。「この土地のきれいな水と栄養分を含んだ土壌がおいしさを育てます。しかし、自然ばかりに頼らず、毎年土壌を改良し続けることも大切。地力のある田んぼの稲は丈夫で倒れにくく、良い米が育ちますから」。この辺のお米の味わいは、雪国の気候風土から生まれ、人々の手によってはぐくまれたおいしさなのです。
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朝日に染まる春先の棚田。この雪解け水が豊かな土壌を造る。蒲生
刈り取った稲を背で運び、はざ木にかけて干す。こうして天日で干した米はことのほかおいしい。松代東山
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■トピック■ 魚沼産コシヒカリ |
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新潟が誇る良質米、コシヒカリ。十日町市はその中でも特においしいと賞される「魚沼産コシヒカリ」の産地です。ふっくらと艶(つや)やかで甘みのある味わいは「炊きたてがあれば、おかずがいらない」と言われるほど。どうして魚沼産は特別おいしいのか?その秘密はこのまちの地形と気候に深い関係があります。
十日町市は信濃川、渋海川、清津川という3本の水脈により形成され、豊かな土壌が眠る河岸段丘の上に発展したまちです。山と川に囲まれた盆地のため寒暖の差が大きく、雨上がりや急に冷え込んだ日には川霧に包まれます。「寒暖の差が大きく、川霧が出る土地の米はおいしい」。農家に古くから伝わるこの言葉が示す通り、ここ魚沼産のコシヒカリは日本のトップブランドに育ちました。
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山を守る
棚田の治山機能
新潟県から長野県中部にかけての丘陵は、日本でも有数の地滑り地帯です。この地域に位置する松代、松之山地域では、大雨が続くと土砂が崩れ、その土砂が棚田に流れ込むことも。なぜこの地域は地滑りが起きやすいのか?その理由は地層にあります。この地域の地層は地球ができてからまだ新しい第3紀層という地層。主に泥岩というしっかりと固まっていない岩からできています。泥岩からできた土は水を含むとふくれあがる性質があり、大雨が降ると、ふくらんで柔らかくなった土とその下にある硬い岩の層との間に水が入り込み、柔らかくなった土がズルリと動くのです。
「大雨の後は、いたるところに崩れた棚田があるよ」。放棄され、ひび割れた棚田に大雨が浸み込み、その割れ目から土が崩れていく。一方手入れされた棚田は水を蓄え、地滑りを防ぎます。しかし、悪いことばかりではありません。土砂が流れこんだ翌年は、その田んぼにいい米が育つといわれています。流れこんだ山の土が新たな栄養分を運び、田んぼに地力がつくからです。
山を守り、実りをもたらし、災害から暮らしを守る。棚田は山間部で必然的に生まれた土地利用であり、この地方の風土そのものなのです。
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